『双子の星』

こんな伝説がありました。
夜空に輝く星達の中で、青く光る星と赤く光る星。
全く違う光を持つこの二つの星は、同じように光り輝く日を、待っているのだと。

大きな湖のほとりで、ひとりの少女が佇んでいました。
大きな瞳からは、大きな涙が、零れ落ちそうでした。
そっと、ひとりの少年が近付いて来ました。
そっと、少女の手をとりました。

少女はおどろいて少年を見つめました。
少年はとても嬉しそうに、微笑んでいました。
「だめだよ、こんな所でひとりで泣いてちゃ。」
少年が言いました。
少女は涙を拭うと言いました。
「あなたは誰なの?何処から来たの?」
少年は、空を見つめて言いました。
「僕はただ、不思議な星の光を追いかけて、ここに来たんだ。」
二人はしばらく、見つめ合っていました。
雲の隙間から、月の光が二人を照らしました。星が二つ、出ていました。
「ね。明日また、ここで会おう。今日はこれでさよならだ。君に会えたから。また明日、会おう。」
そう言って少年は姿を消しました。
少女は空を見上げて呟きました。
「星の、光?」

次の日、少女は湖のほとりに行ってみました。
けれど、星もその少年も、現れませんでした。

少女にとってその湖は、悲しい涙を掬ってくれる、優しい湖でした。
涙が溢れそうになるといつも、出かける湖でした。
そして少女はその日から、その湖のほとりに出かけなくなってしまいました。

いつしか、少女が少年との約束を忘れた頃。少女は不思議な星の光を追って、湖のほとりまでやって来ました。
姿を消していた月が、湖を照らしました。
輝く湖を見て、少女は、あの少年のことを思い出しました。
そして、空を見上げると、仲良く並んで光っている二つの星が見えました。
「はら。また会えた。」
少年の声が聞こえました。
少女は驚いて振り向きました。
「君の涙が見えたんだ。僕には見えたんだ。今日ここで、君に会わなきゃって、そんな気がしたんだ。」
優しい少年の瞳を見ていると、少女は悲しい涙を忘れ、少女の瞳も、キラキラと光り始めました。
「久しぶりなの、ここに来るのは。でも、あの不思議な星の光が見えたから。」
少女の蒼い瞳と、少年の朱い瞳。
二人の瞳が、二つの星のように、輝き始めました。
二人の瞳を映していた湖から、青い光と赤い光が、真っすぐ空へと、昇って行きました。
空には、青い星と赤い星が、仲良く並んで、光っていました。

こんな伝説があったのです。
何億と瞬く星の中で、仲良く並んだこの二つの星は、
同じように澄んだ瞳で、出会う日を、待っているのだと。
約束などなくても、出会えることを、知っているのだと。



ものがたり
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