『太陽の少年』

僕は、太陽を眺めているのが好きだった。
山の向こうから昇り、海の向こうへと沈んでいくのを、丘に座り、毎日毎日、眺めていた。

ある夜、夢を見た。
1人の少年が丘の上に立ち、昇る太陽を見つめていた。
高い山の向こう。
地平線の彼方。
気が付くと少年は、その太陽に向かって、旅立って行った。

次の夜、夢を見た。
1人の少年が丘の上に座り、沈む太陽を眺めていた。
深い海の向こう。
水平線の彼方。
そして少年は、僕の方を見て、笑った。
あたりは闇に包まれ、少年の目だけが、黄色く光っていた。
僕は体が震えて、動けなかった。

また、夢を見た。
2人の少年が、2つの太陽を見つめていた。
昇る太陽。
沈む太陽。
2人の少年は、僕の両側に立ち、僕の腕を引っ張り始めた。
僕は、大きな声を出した。
「痛い!痛いよ!」
僕の声を聞いて、昇る太陽の少年が、手を離した。
沈む太陽の少年が、笑いながら、僕を引っ張って行く。
黄色く光る目が、笑っている。
「離して!」
僕は勇気をふりしぼって、沈む太陽の少年の手を振りほどき、昇る太陽の少年の手をつかんだ。
その時、僕達の体が浮き上がった。
「浮いてる!僕達、飛んでいるよ!」
2人で、昇る太陽へと向かって飛んでいた。
高く高く、太陽へと吸い込まれて行った。
赤く光る太陽が、とても眩しかった。

僕は目を覚ました。
それっきり、太陽の少年の夢は見なかった。
最後の夢を見た日。
僕は、昇る太陽の方へと、歩き始めていた。



ものがたり
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