『てんくんと海』

海さんは今日も、ただ、静かに、うたっています。
てんくんは、海さんの、この、優しいうたを聞くのが大好きです。海さんのうたを聞いていると、とっても優しい気持ちになれるからです。
今日のてんくんは、とてもイヤな子だったのです。
いつものように笑って、てんくんをはげましてくれたゆうちゃんに、
「ゆうちゃんもなんにもわかってくれてないんだね。もうなんにも言いたくないよ!」
と、とってもこわい顔をして、言ってしまったのです。
そのあと、ゆうちゃんは、とっても悲しそうな顔をして、何も言わずに帰ってしまったのです。
てんくんは、ゆうちゃんのことも信じられなくなって、海さんのうたを聞きに行くことにします。
「ねぇ、海さん。どうしてみんな僕のことわかってくれないのかな。」
海さんは、ただ、静かに、いつものようにうたっています。
「ゆうちゃんはなんでも聞いてくれていたのに、やっぱりわかってくれていなかったんだよ。」
てんくんがそう言っても、海さんは何も言わず、ただ、静かに、うたっています。
てんくんは、少し悲しくなって、こうつぶやきます。
「海さんもわかってくれないんだね。」
すると、海さんはうたうのをやめて、こう言います。
「てんくんは、みんながつまらない顔をしているのを見て、楽しいと思うかい?みんなが楽しくないお話しをしているのを、聞いていたいと思うかい?てんくんは、ゆうちゃんに、いつもどんなお話しを聞いてもらっていたのかな。」
てんくんは、いつも話していたことと、ゆうちゃんの笑顔、そして、いつも楽しく遊んでいるみんなのことを、思い出します。
「せっかく一緒にいられてうれしいのに、ぼくはいつも、いやだいやだってことばっかり話してた。ゆうちゃんは、大丈夫だよって言ってくれていたのに、いつも、ちがうよ、って。みんなは楽しく遊んでいたのに、ぼくは楽しくなんかないよ、って、一緒に遊ぼうとしなかった。一緒に笑うことだってできたのに、そうしようとしなかったんだ。ぼくは、みんなのことを、ぼくの方から嫌いになってたんだ。」
今にも泣き出しそうにそう言うてんくんに、海さんはこう言ってくれます。
「てんくん、そのことに気がついたのなら、もう、大丈夫だね。みんなだって、てんくんと楽しく遊びたい、お話ししたいって思っているんだよ。楽しく一緒に遊んだりお話ししたりしていたら、いやなことは忘れられるからね。明日からはまた、楽しいお話しができるね。」
「うん。ありがとう、海さん!」
てんくんはそう言って、元気に帰って行きます。
海さんは、また、静かに、うたい始めます。
次の日も、いいお天気です。みんなはお外で、元気に遊んでいます。
「おはよう!」
元気にそう言うてんくんの笑顔を見て、ゆうちゃんも、とてもうれしくなって、笑顔で答えてくれます。
「おはよう、てんくん。また、色んなお話し、聞かせてくれるよね。」
てんくんは、元気な声で、こう言います。
「ゆうちゃん、昨日はごめんね。いやだいやだってことばっかり話していたから、いやな気持ちになっていたんだ。昨日、海さんに会いに行ったよ。ぼく、海さんのこと好きだけど、みんなのこと、ゆうちゃんのことも大好きなんだ。みんなと遊ぶのが大好きなんだ。」
そして、少しはずかしそうに、
「それでね、今日は何をしようかな、って、考えて来たんだ。聞いてもらえるかな。」
てんくんがそう言うのを聞いたみんなも、笑いながら、大きくうなづきます。

みんなの笑顔を見て、てんくんは、とてもうれしくなるのでした。



ものがたり
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