『てんくんと月』

こっそりうす目をあけて、今夜もお月様はみんなの夢を見守っています。
そんなお月様は、ほんとうはまん丸です。でも、毎晩みんなに見せる形が変わってしまうのです。
いつものように一緒に遊んだ帰り道、ふと空を見上げたすぅちゃんが、てんくんに言いました。
「今日のお月様は半分の目で見てくれているよ。」
それを聞いててんくんは、
「ほんとだね。今日は半分だね。ぼく、お月様って毎日違う形になるから、好きになれないんだ。ほんとうはどんな形なのか、わからないんだもん。おっきな顔をしてると思ったら、ぜんぜん見えなくなってしまう時もあるじゃないか。」
と、少しこわい声で言いました。
すぅちゃんはとても悲しい気持ちになってしまいました。
そのあと、てんくんとすぅちゃんはだまったまま、一緒にお家に帰って行きました。
すぅちゃんのお家について、
「じゃあ、また明日ね。」
と、てんくんが言ってくれた時も、すぅちゃんはだまったまま、お家の中に入ってしまったのです。
その日の夜、すぅちゃんは窓から空を見上げて、お月様に話しかけました。
「ねぇ、お月様。てんくんはどうしてあんなことを言うのかな。お月様のことを好きになれない、なんて。だって、どんな形になっても、お月様はみんなのこと、いつも見守ってくれているのに。わたしは大好きなのに。今日はとっても悲しくなってしまったの。もしかしたら、みんなもそうなのかな。もしそうなら、もうみんなとは遊びたくないな。」
そんなすぅちゃんの言葉を聞いて、お月様は悲しくなってしまいます。
そして、ひとりでとても悲しそうにしているすぅちゃんに、話しかけてくれました。
「好きだって言ってくれてありがとう、すぅちゃん。」
すぅちゃんは、お月様が話しかけてくれたので、うれしくなります。
お月様はつづけます。
「まん丸の時のわたしを好きになってくれる子はたくさんいるね。だけど、その中のほとんどの子は、うす目になっている時のわたしは嫌いだって言うの。とても悲しいことだけど、そんな子は、ただ、まん丸の光っているものが好きだってことなのかな。どんな形になっていても、お月様が好きって言ってくれる子が、ひとりでも見ていてくれたら、とてもうれしいの。だから、すぅちゃんが見ていてくれたら、いやなことなんてぜんぜん気にならないのよ。」
お月様がそう言ってくれて、すぅちゃんはまた、うれしくなります。
すぅちゃんのうれしそうな顔を見て、
「だからすぅちゃんも、もうみんなと遊びたくない、なんて言わないでほしいな。ただ、すぅちゃんとみんなは、何かを見るときの目が、少しちがっているだけなのね。ほんとうは、みんな素直でいい子だものね。それに、すぅちゃんと同じように思っていてくれる子はほかにもいるはずだから、すぅちゃんには、そんな子をたくさん見つけてほしいな。」
そう、お月様が言いました。
「うん。明日になったら、お月様を好きだって言ってくれる子をたっくさん見つけるよ。」
「すぅちゃん、わたしを好きな子を見つけることよりも、いつもみたいにみんなと仲よく遊んできてね。」
「わかった!お月様、おやすみなさい。」
「おやすみ、すぅちゃん。」
お月様の目が少しだけ、大きくなりました。

次の日、すぅちゃんはてんくんに言ってみます。
「昨日の夜、お月様とお話しをしたの。お月様がわたしに、ありがとうって言ってくれたの。とってもうれしかったんだよ。」
するとてんくんが、
「ぼくもお月様とお話しをしてみたいな。」
と言ってくれたので、すぅちゃんはうれしくなって、
「そうしたらきっと、てんくんもお月様のこと、好きになれるね。」
と、笑顔になりました。

姿を消したお月様が、そんなすぅちゃんを見て、うれしそうに微笑んでいます。
そして、お月様は空の向こうに帰って行きました。
また、みんなの夢を、見守るために。



ものがたり
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