『てんくんと空』

空さんは悲しい気持ちになっています。
いつもみんなを楽しい気持ちにしてくれる、空さんの大好きなてんくんが、うちに閉じこもってとても悲しそうにしているからです。
空さんがいつものように笑っていないと、みんなもお外で元気に遊ぶことができません。
「てんくん、どうしたの?」
窓の外から空さんが話しかけても、てんくんはまだ、うつむいたままです。
「てんくん、いつもみたいにお外に出ておいでよ。」
ようやく顔をあげたてんくんは、
「だって、おとといはあんなに元気だったしぃちゃんが、昨日はずっとひとりですわって、とても悲しそうな顔をしていたんだ。ぼくはしぃちゃんが悲しそうにしているのを見たくないよ。それに、もうお外に出て来ないかもしれない。しぃちゃんが来ないかもしれないのにお外で遊びたくなんかないよ。」
そう言ってまた、ひざをかかえてうつむいてしまいます。
そんなてんくんを見て、空さんは困ってしまいます。もちろん、昨日はしぃちゃんがとても悲しそうだったのも知っています。
だから今日は、てんくんがしぃちゃんを元気にしてくれる、と、楽しみにしていたのです。
「そんなてんくん、僕は嫌いだよ。もうてんくんになんか会いに来ないからね。」
そう言って、空さんは雲さんの向こうに隠れてしまいます。
次の日も、その次の日も、てんくんはうちに閉じこもったままです。そして、空さんは雲さんの向こうに隠れたままです。
もう何日もお外で遊べなくなって、明日になるのを楽しみにしていたみんなも、元気がなくなってしまいます。そして、だんだん悲しい気持ちになってしまいます。
てんくんがお外に出なくなり、空さんが隠れてしまって、もう5日目の朝になりました。
てんくんはやっと、空さんが笑いかけてくれていないことに気付きます。
お外で元気に遊んでいるはずのみんなの姿も見えません。
てんくんは、みんなの笑い声を聞くのが大好きだったので、淋しくなってしまいます。
思い切って、空さんに話しかけてみます。
「どうして空さんは雲さんの向こうに隠れてしまっているの?ねぇ空さん、どうしてみんなお外で遊んでないの?」
てんくんがやっと話しかけてくれたので、空さんはうれしくなります。でも、すぐには応えません。
てんくんは、空さんが何も言ってくれないので、困ってしまいます。
――もしかしたら、遠くに行ってしまって聞こえなかったのかもしれない。
てんくんはそう思ったので、今度はもっと大きな声で話しかけてみます。
「空さん、聞こえていたらお顔を見せてよ。ぼく、空さんとお話ししたいんだ。」
空さんはもっとうれしくなって、てんくんに会いに行くことにします。
「てんくん、やっとお外を見てくれたんだね。てんくんが顔を上げてくれるのを待っていたんだよ。しぃちゃんだって、みんなだって、ずっと、てんくんと遊びたいって思っているんだよ。」
「しぃちゃんは元気になっているの?」
「そうだよ。あの日はね、大好きだった小鳥さんがいなくなってしまったからあんなに悲しそうにしていたんだよ。だけど、元気に遊んでいるてんくんやみんなといると、悲しい気持ちは忘れられるから、楽しくなれるから、てんくんのこと待っているんだよ。」
「しぃちゃんが・・・。みんなも、ぼくのこと待っているの?」
「そうだよ、てんくん。僕だっててんくんがずっと閉じこもってしまっていたから、そんなてんくんを見ていたくないから、ずっと隠れていたんだよ。てんくんが楽しそうに遊んでいると、みんなだって楽しくなれるんだ。てんくんには、そんな素敵な力があるよ。」
「空さん、ごめんなさい。ぼく、そんなふうに思ったこともなかったから・・・。ねぇ、今から、みんなと遊べるかな。」
「もちろんだよ。みんな、てんくんがお外に出てくるのを待っているよ。」
「ぼく、みんなのこと呼びに行ってくる!」
てんくんはとてもうれしい気持ちになって、元気にお外に出て行きました。

「ねぇ、みんな。一緒に遊ぼうよ!!」



ものがたり
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