『てんくんと虹』

今日もみんなと一緒に遊ぼうと、てんくんがお外に出ると、まっ青な空に、大きな虹がかかっていました。
雨が降ったあとにかかる、この大きくてきれいな虹が、てんくんは大好きです。
うれしそうに虹を見ていたてんくんに、
「てんくん、おはよう!」
と、そぉくんが声をかけました。
てんくんはそぉくんの方を見て、
「今日はとってもきれいな虹がかかっているから、僕、とってもうれしくなったんだ!」
と、言いました。そして、
「だけど虹は、出てほしいって思った時にいつでも出てくれるわけではないから、今日は僕、ずっとここで、虹を見ていてもいいかなぁ?」
と、そぉくんに聞きました。
そぉくんは、少し悲しくなりました。
今日もてんくんと遊べるのを、楽しみにしていたからです。
だけど、そう言ってまた、うれしそうに虹を見ているてんくんを見て、言いました。
「うん。わかったよ、てんくん。みんなには、てんくんが虹を見ていたいから、今日は一緒に遊べないって、言っておくね。」
そして、みんなと遊ぶため、てんくんにさよならをして、走って行きました。
そんなてんくんを見て悲しく思ったのは、そぉくんだけではありませんでした。
てんくんがうれしそうに見ている虹さんも、少し悲しくなって、少しだけ小さくなったのです。
虹さんは、そんな虹さんの様子に気が付かないまま、うれしそうに見てくれているてんくんに話しかけます。
「てんくん。そんなに私を見てくれて、ありがとう。」
「え!?虹さんなの?虹さんが話しかけてくれているの?」
てんくんはとてもおどろいて、でも、とてもうれしくて、虹さんの方に手を伸ばしました。
「そうだよ、てんくん。みんなてんくんのことを待っているのに、今日はみんなと遊びには行かないの?」
虹さんがそう言うと、てんくんは、
「だって、虹さんは、僕が見たいって思った時にいつだって出てきてくれるわけではないから、今日はずっと、虹さんを見ていたいんだ。」
と、とてもうれしそうな笑顔で言いました。
虹さんは、そんなてんくんを少し悲しそうに見つめて、こう言いました。
「でもね、てんくん。そぉくんやみんなは、てんくんと遊びたいと、思っているんだよ。それに、虹は、てんくんが見たいと思えば、いつだって見えるんだよ。」
それを聞いて、てんくんはとても不思議そうな顔をしました。
虹さんは続けます。
「例えば、てんくんに会いたいしぃちゃんや、てんくんと仲間でいたいひぃくん。てんくんと一緒に考えたいみぃくんや、てんくんに笑っていてほしいゆうちゃん。 ただてんくんと一緒にいたいまぁくんや、てんくんにもみんなを好きでいてほしいすうちゃん、てんくんにひとりでいる時だって淋しくないってことを知ってほしいはぁちゃん。 そんなみんなの気持ちがいろんな色になって、てんくんに届いているんだよ。てんくんがみんなのことを好きなら、七つの色になっててんくんに届く、心の中の虹が見えるはずだよ。 みんなのこと、思ってごらん。」
てんくんは目を閉じて、みんなのことを考えます。
「それに、今日、一緒に行こうよってさそってくれたそぉくんの気持ちや、他のみんなの気持ちもあるから、今の私のようにではなくて、何色もの虹を、てんくんの心の中にかけることができるんだよ。 もし、てんくんがみんなのことを本当に思っているなら、そんなてんくんの気持ちが届いて、みんなの心の中にも、きれいな虹がかかるはずだよ。」
目を閉じたまま、てんくんは言いました。
「すごくきれいな虹が見えるよ。空にかかる虹さんもきれいだけど、みんなの気持ちは、とってもきれいに光っているんだね。」
てんくんがそう言うのを聞いて、
「さぁ、みんなてんくんのこと、待っているよ。一緒に遊んでおいで。」
虹さんは、優しく笑って言いました。
そして、虹さんに手を振りながら
「ありがとう!!」
と言ってみんなのところに走って行くてんくんを見送った虹さんは、ゆっくりと、消えていきました。

てんくんが走ってくるのを見つけたそぉくんが、大きく手を振って
「てんく〜ん!!」
と、大きな声でむかえてくれます。
みんなも、笑いながら、大きく手を振っています。
そんなみんなの笑顔がいろんな色になって、てんくんの心に届いています。
もちろん、とてもうれしくなったてんくんの気持ちも、きれいな色になって、みんなの心に、きれいな虹をかけているのでした。



ものがたり
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