『てんくんと森』

みどりの森には、たくさんの生きものが住んでいます。きれいな小鳥たち、かわいいリスやウサギ、その他にもたくさんの。
そして、昼でもうす暗い森の奥深くには、マモノがひそんでいるといいます。
てんくんとみんなは今日も楽しく遊んでいます。だけど、今日は少しもの足りません。
こわいのもなんてへっちゃらって顔をして、色んな、楽しくてステキなことを考えてくれるみぃくんが、今日はいないからです。
しぃちゃんが
「みぃくんがみどりの森の方へ行くのを見たわ。」
と言っても、みんなはいつもお母さんに
「みどりの森の奥深くに入ってはいけませんよ。こわいマモノにつかまってしまいますからね。」
と言われているので、誰もみぃくんを探しには行きません。
みぃくんはひとりで、みどりの森の奥深くに入っていました。
ここなら、誰も来なくて、ひとりになれると思ったからです。
そんなみぃくんを見つけて、マモノが声をかけました。
「これはこれは、みぃくんじゃないか。ひとりでこんなところへ来て、こわくないのかい?」
「うん。ほんとうはとってもこわかったよ。だけど、みんなと遊びたくなかったんだ。」
みぃくんが、強がってはいてもとても悲しそうなので、マモノはこう言います。
「いったいどうしたんだい。いつもみんなを楽しませて元気に遊んでいるじゃないか。」
「だって、みんなはぼくがなんにもできないでいると、『どうして今日は何もやらないの』『じっとしてちゃだめだよ』ってぼくに言うんだ。いろんなことやりたいのに、やりたくても何もできないでいると、『そんなのみぃくんらしくないよ。がんばってよ。』って。いつもひとりで何だってできるわけじゃないのに、みんなに助けてもらいたくなることだってあるのに、みんなはそんなふうに考えてはくれないんだ。」
そんなみぃくんを、みどりの森はやさしく包んでいます。
マモノは、
「ちょっと、みんなの様子を見てくるよ。」
そう言って、小鳥になって飛んで行きました。
マモノの小鳥に気が付いたのは、みぃくんのことが気になっていた、てんくんです。
てんくんは、そっと、みんなのところをはなれて、マモノの小鳥が止まったベンチに座りました。
そして、マモノの小鳥に話しかけます。
「小鳥さん、みぃくんはみどりの森にいるの?」
「知っていたのかい?みぃくんがひとりでみどりの森の奥深くまで来ているのを。君はみぃくんの友達かい?」
マモノの小鳥にそう聞かれて、てんくんは迷わず、こう答えました。
「そうだよ。ぼくはみぃくんの友達だよ。」
「それなら、どうしてみぃくんがみどりの森にいることを知っているのに探しに行かないんだい?」
てんくんは、少しくやしそうにうつむいてしまいます。
そして、こう言いました。
「だって、いつもお母さんが言うのを聞いて、とってもこわかったんだ。」
すると、マモノの小鳥は、
「みぃくんだって、とってもこわがっているさ。だけど、それよりも、みんなと会いたくない、ひとりになりたい、と思ったんだよ。こわくても、みどりの森の奥深くまで来てしまうくらいにね。今のみぃくんには、みんなの方がこわいんだよ。わかるかい?」
と、てんくんに言いました。
てんくんには、いつも楽しそうに遊んでいるみぃくんが、どうしてみんなのことをこわがっているのか、よくわかりません。
でも、思いきってこう言います。
「ねぇ小鳥さん、ぼくをみぃくんのところへつれて行ってよ。」
マモノの小鳥はすぐに飛び立ち、みぃくんのいるみどりの森の奥深くへとてんくんをつれて行きました。
そこで、泣いていたみぃくんに、てんくんは話しかけました。
「みぃくん、今日もみんなと遊ぼうよ。いつもみたいに楽しく!」
てんくんが来てくれたことにおどろいたみぃくんが
「楽しくなんか遊べないよ。みんなぼくが何もできないと、ぼくと遊んでくれなくなるじゃないか。」
とても悲しそうにみぃくんが言うのを聞いて、てんくんはとても悲しい気持ちになりました。
「ごめんね、みぃくん。もうそんなふうに考えなくてもいいよ。もし、みぃくんが何もできなくても、ぼくは一緒に楽しいことを考えるよ。だから、もうひとりでここに来なくてもいいよ。ぼくやみんなにも、何でも言ってよ!」
そして、泣いていたみぃくんを、そっと、抱きしめるのでした。
そんな2人を包んでいた、いつもは暗いみどりの森が明るく輝き、マモノの小鳥が2人を森の出口までつれて行ってくれました。

そして今日も、みんな楽しく遊んでいます。
みぃくんが困ってしまったら、てんくんはこう言います。
「ねぇ、一緒に考えよう!」



ものがたり
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