『てんくんと風』

風さんは毎日、この広い世界のあちこちをかけまわっています。ほんとうにたくさんの、色んなことを、毎日、見ているのです。
そんな風さんは、いつも仲よく遊んでいるみんなに会えることを、楽しみにしています。
だけど、このごろ、少し悲しく思うことがあるのです。
まぁくんは、とても優しい目の男の子で、みんなといる時はいつも笑って、ほんとうに楽しそうにしています。毎日、みんなと遊ぶために、お外に出て来ています。
でも、自分から何でもお話しをする子ではありません。
そんなまぁくんに、このごろ、みんながあまり話しかけなくなっているのです。
それでも、まぁくんはみんなといると、とても楽しそうにしています。そして、時々、みんながお話しをしている時は、少しはなれた所に立って、少し、淋しそうにしているのです。
風さんがそのことに気が付いてから一ヶ月がたち、みんなに会えるのを楽しみにしていた風さんが来てみると、まぁくんは、お外に出るのをやめてしまっていたのです。
風さんはびっくりしてしまって、みんなが遊べなくなるくらいの強い風を吹かせます。
みんなはこわがって、すわりこんでしまいます。
「いやだ、こわいよ。ねぇ、風さん、止まってよ。」
てんくんが大きな声で言います。
風さんは、強い風を吹かせるのをやめて、みんなにこう聞きます。
「ねぇ、まぁくんはどうしたの?いつもおとなしいけれど、とても楽しそうに、一緒に遊んでいたじゃないか。」
みんなは少し困ったように、おたがいの顔を見合わせて、うつむいてしまいます。
「いったい何があったんだい?何か話してくれないと、わからないじゃないか。」
風さんは優しい声でこう言います。
てんくんが顔を上げて、こう言います。
「だって風さん。まぁくんはいつも、一緒に遊んでいてもにこにこしているだけで何も言わないから、つまらないんだ。ほんとうに楽しくて一緒にいるのかどうかもわからないし、どうしていつも一緒にいるのか、わからないんだ。」
風さんはもっと悲しくなって、ひと吹き、強い風をおこします。
風さんには、まぁくんはほんとうに、みんなといられることが好きで、ほんとうに楽しくて、毎日お外に出ていたということが、よくわかっていたのです。
そんな風さんは、みんなに、こう言ってみます。
「そうだね。まぁくんは、いつも自分からは何も言わない子だね。だけど、言わないんじゃなくて、いつもみんながお話しをしたがっているから、言えなかったんじゃないのかな。今まで、誰でもいい、ひとりでもいいから、まぁくんの言葉を聞こうとしたことが、あったのかな?」
みんなは、風さんのこの言葉を聞いて、うつむいたまま、立ち上がります。
「まぁくんはきっと、自分がお話しをするよりも、楽しそうにお話しをしているみんなといられることを、うれしいと思っているんだよ。だから、何も言わないからって、みんなが一緒にいてあげなくなってしまったら、まぁくんは、とても淋しい思いをしているんじゃないかな?」
風さんがそう言うと、てんくんが、みんなにこう言います。
「そうだよ。まぁくんはいつも、ほんとうに楽しそうだったよね。いつもぼくたちに、何でもお話しをさせてくれていたんだ。ねぇ、まぁくんをむかえに行こうよ!」
みんなは顔を上げてうなづきます。
風さんは、うれしそうに
「ゆっくり、まぁくんの言葉を聞いてごらん。きっと、とてもステキな、まぁくんだけの言葉を聞かせてもらえるから。」
そう言って、とても優しい風を吹かせます。

それからまた、一ヶ月がすぎ、風さんがみんなに会いに来てみると、前よりももっと楽しそうに笑っているまぁくんが、みんなと一緒に遊んでいるのです。
風さんはそっと、てんくんにこう聞きます。
「まぁくんは、ステキは言葉を持っていただろう?」
てんくんは、元気にうなづいて、言います。
「うん。ぼくも、もっともっと、まぁくんのこと、みんなのこと、大好きになったよ!」



ものがたり
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