『てんくんと花』

ゆうべは雨が降ったので、てんくんのお庭のお花さんも、元気になっています。そして、今日も元気に遊びに行くてんくんを、そっと、見守っています。
てんくんとみんなは、いつものようにろくるんごーをして遊びます。
てんくんと仲間になるのはひぃくんです。何も言わなくても、いつのまにか、それが決まりごとになっているのです。
てんくんとひぃくんのチームは無敵です。2人で仲間になってからは、1度も負けたことがありません。だからと言って、ほかのみんなは、てんくんとひぃくんが仲間でいるのをいやがったりはしません。
だって、てんくんとひぃくんが仲間でいてくれることがとても自然で、自分が勝つことよりもうれしいことだからです。
うちに帰ると、てんくんは決まって、とてもうれしそうにお花さんに話します。
「ぼく今日も勝ったんだよ。今日はぼく、れいるごーができたんだよ。すごいでしょう。」
その話を聞いて、お花さんは少し悲しい気持ちになるのです。ひぃくんと仲間で遊んでいるはずなのに、勝つのはまるでてんくん1人のようなその話し方に。
その日の夜、お花さんは、ひぃくんと夢の中でお話しをすることにします。
「ひぃくん、こんばんは。」
「あ!!てんくんのお庭のお花さんだ!こんばんは!!」
ひぃくんは今日もてんくんと仲間で、とてもうれしかったので、夢の中も、うれしい気持ちでいっぱいです。
お花さんはすぐに、ひぃくんがとてもうれしそうなことに気が付いて、こう言います。
「ひぃくん、今日もとっても楽しかったんだね。」
「うん!だって今日もろくるんごーでてんくんと仲間になれて、とってもうれしかったんだもん!!」
「そうなんだね。ひぃくんはそんなふうに思ってくれているんだね。きっと、てんくんもとっても喜んでいるよ。」
「ほんとう?ぼく、もーっとうれしくなっちゃったよ!!ありがとう、お花さん!」
ひぃくんのうれしい気持ちがもっとおおきくなって、ひぃくんの夢の中にたくさんのお花が咲いたのです。
お花さんは、そんなひぃくんを、もっと好きになります。だけど、てんくんのことを思って、少し悲しい気持ちになります。
今度はてんくんに、夢の中で話しかけます。
「てんくん、今日も楽しかったね。今日もひぃくんと仲間でよかったね。ひぃくんは、てんくんと仲間でいられるから、とってもうれしそうだよ。」
「ひぃくんはぼくと仲間で、いつも勝てるからうれしいんだね。」
「そうじゃないんだよ、てんくん。ひぃくんがうれしいのは、てんくんと仲間でいられるからなんだよ。みんなだって、てんくんとひぃくんが仲間でいてくれるからうれしくて、いつも楽しく遊べるんだよ。てんくんは、いつも勝てるから楽しいの?」
てんくんは、お花さんにこう聞かれて、少し考えこんでしまいます。
「ううん、ちがうね。ぼくがいつも楽しく遊べるのは、ひぃくんと仲間だからだ。もし勝てなくても、ぼく、ひぃくんと仲間になれると、とってもうれしいよ。ぼく、ひぃくんのこと大好きなんだもん。」
「てんくん、ありがとう。僕、てんくんがそう言ってくれて、とってもうれしいよ。また明日も、みんなと、ひぃくんと、楽しく遊べるね。」
朝、てんくんが起きると、1本のお花が置いてありました。てんくんは、そのお花を持って遊びに行ったのです。
「おはよう、ひぃくん。今日も仲間だね。」
そう言って、てんくんはひぃくんにそのお花をあげたのです。
もちろん、今日も、そしてこれからも、てんくんとひぃくんは仲間です。

「ぼく今日もひぃくんと仲間だったよ。ひぃくんと仲間だから、とーってもうれしいんだ!!」
その日からてんくんは、そう、お花さんに話すようになりました。



ものがたり
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