『てんくんと雨』

今日は雨が降っています。
とっても優しい雨なので、いつもお日様に向かって背のびしているお庭のお花も、光っています。
お外で遊ぶことができないので、はぁちゃんはお家で、いつも一緒に遊んでいるみんなのことを考えています。
明日、雨が上がったらみんなと遊べるのに、と考えていたはぁちゃんは、おじいちゃんが買ってくれた色えんぴつを取り出し、おばあちゃんが買ってくれた大きな画用紙に、てんくんやみんなのお顔を描いてみました。
みんなの、とっても楽しそうにしているお顔が描けたので、はぁちゃんは、
「みんなに会えない日でも、淋しくなんかないんだ!」
と、うれしくなりました。
次の日は雨が上がったので、みんなお外に出ています。
てんくんが言いました。
「昨日は雨が降ってお外で遊べなかったから、つまらなかったね。」
みんなはうなづきました。
でも、はぁちゃんはうれしいことがあったので、だまったままでした。
てんくんはそんなはぁちゃんを見て、少し不思議そうな顔をしました。
でも、いつもと同じように遊んでいました。
また次の日です。その日は少し大粒の雨が降っています。
少しの間お外を見ていたはぁちゃんの顔に、雨が一粒あたりました。
そして、声が聞こえてきたのです。
「どうして昨日は、雨が降っていてもつまらないだけじゃない、ってみんなに言わなかったの?」
それは、雨さんの声でした。
はぁちゃんはつぶやきました。
「だって、わたしが楽しいって思うことを、みんなは楽しいって思わないかもしれないわ。」
また、雨が一粒、飛び込んで来ました。
「みんなだって、お外で遊べなくても、何か楽しいことがあるって教えてもらえたら、うれしいって思うはずだよ。」
「もし、つまんないよって言われたら、悲しいもの。」
雨が、少しはげしくなりました。
そして、たくさんの雨粒が、はぁちゃんの顔にあたりました。
「きっと、てんくんはそんなこと言わないはずだよ。」
「きっと、楽しいねって言ってくれるよ。」
「きっと、楽しいこと教えてくれてありがとう、って言ってくれるよ。」
はぁちゃんは、いつも笑ってくれるてんくんのお顔を描いてみました。
すると、雨さんの言うとおりだ、と思えたのです。
次の日、みんなは一緒に遊んでいます。
そして、
「昨日もつまらなかったね。」
と言うてんくんに、はぁちゃんは思いきって言ってみます。
「でもね、お家にいても楽しい気持ちでいられたのよ。」
「ほんとう?どうしてなの?」
「今度雨が降ったら教えるね。家に遊びに来てくれたら。」
てんくんはとても気になったので、
「うん。わかったよ。今度遊びに行くね。」
と、言いました。
はぁちゃんとてんくんは、また雨が降る日を楽しみにしています。
ふたりでそんな話をしてから何日かたった日、雨が降りました。
てんくんがはぁちゃんのお家に遊びに行くので、優しい雨です。
とても楽しみにしていたてんくんは、うたをうたいながら、はぁちゃんのお家に行きました。
「はぁちゃん。あーそぼ。」
はぁちゃんは、今までに描いていたみんなのお顔を、てんくんに見せました。
てんくんは、
「すごいね、はぁちゃん。こうやってみんなのお顔を描いていれば、お外で遊べなくても、みんなに会えない日でも、淋しくなんかないんだね。」
と、言いました。
はぁちゃんは、とってもうれしそうにしています。
「みんなにも教えてあげようよ。だって、みんなで一緒にできたら、きっと、もっと楽しくなるよ!」
てんくんがそう言ってくれたので、はぁちゃんは大きくうなづきました。
「それに、描けるのはみんなのお顔だけじゃないもんね。」
そう言うとてんくんは、緑の風や森、お花、空とお月様、大きな海の絵も描きはじめます。
てんくんがいろんなものを描くのを見て、はぁちゃんはとってもうれしそうに言いました。
「てんくんに来てもらって、本当によかった。」
そう言ってもらって、てんくんは少し恥ずかしそうに言いました。
「こんなステキなことを教えてくれたのは、はぁちゃんだよ。はぁちゃん、ありがとう。」

これからはもう、みんなお外で遊べなくても、つまらない、なんて言いません。
だって、はぁちゃんがステキなことを教えてくれたのですから。



ものがたり
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